いつものようにスバルと机を並べて、飯を食い始めて10分ぐらいしたぐらいだろうか。

「――――あ。俺、凄ぇコト思いついちゃった」

 と、おにぎりを食べ終わりつつパックの烏龍茶を飲んでる最中に教室の片隅からなんか妙な声が聞こえた気がした。
 あー、ん……気のせいだな。なんか、声にダメ人間オーラ漂ってるもん。
 俺の知り合いにそんなダメ人間は居ない。キモイ面した眼鏡は出てこない。

「―――で、だ。今日は夏野菜のカレーをレオの為に誠心誠意込めて作りたいと思う」
「えー、野菜かぁ。俺、どっちかつーと肉食いてぇなぁ。チキンカレーとか美味そうじゃん」
「バカ。お前、ちょっとバランスってモンを考えなさいよ。乙女さんと暮らし始めてからも、ちゃんと野菜食ってないだろ? 良いか、坊主。食いモンのバランスってーのは、思ってる以上に重要なんだぞ。しっかり食べないと、大事な時に力が出ない。なにより、美容に悪い」
「それ、男の言う台詞じゃねぇと思うぞ」
「細かいコトは気にするな。オアシス顔負けのカレー味わせてやっから、お前好みの中辛でな」

 キタよ、これ。
 俺達は結構オアシスで飯を食うもんだから、スバルはあまりカレーを作らない。だけどそれは決して、得意じゃないっつー訳じゃなくて。
 スバルの作るカレーはオアシスのカレーとは違う美味さがあって中々に美味。つまりは、美味い。ベリーデリシャス。

「なに、カレー? じゃあ、ボクも食べ行こうかなぁ。スバル、ボクの分も用意してよね、レオの分とか無くて良いからね。じゃじゃーん、とねっ」
「お前、こういう時は耳ざといのな。後、相変わらず態度糞デケぇな」
「うっさいなぁ。ボクが態度デカいなんて当たり前のコトゆーなよ。ボクが態度小さかったたら、世界は荒れるね。茶会胸奥―――」
「世界恐慌な」
「そう、せかいきょうこーが起きちゃうね」
「お前、日本が銃社会だったら即行で撃たれてんな」
「はっ! ボクみたいな可愛すぎる娘を撃つようなボケが居る訳ねーじゃん」
「いや、俺撃つし」
「お前かよっ!!?」

 もし命が無限だったりしたら、映画の悪役ばりにもの凄ぇ勢いで撃ちまくりそうで怖い。
 出会ってから何年だ? いや、ま、この十何年の絆を疑いたくなるあたり、腐れ縁ってのは悲しいモンだ。ばきゅーん。

「オマエ、そういうコト言うなよ。カニにだって十分過ぎる魅力はあるだろ? ほら、よく見てみろって」
「おっ、さっすがスバルは分かってんじゃん。さぁ、その汚い目でボクのコトを見るのを許可してやるからじっくり見な」
「えー」
「えー、じゃねぇよボケが」

 言われて、カニを見つめる。


 じ――――――っ。
 見る。

「………………」


 じ―――――――――っ。
 更に見る。

「………………」
「……お、おい。ちょっと見過ぎだぞコラ。いくらボクが魅力溢れまくる淑女だからってさー」
「おいおい。皆、照れちゃってさー。ほらほら、恥ずかしがらずに俺の素晴らしい意見を聞きに来いよー。マジ、すっげぇからさぁ」
「まぁまぁ、せっかくだからたっぷり見せてやれよ、蟹先生」


 じ―――――――――――――――っ。
 ついでにもっかい見る。よし、分かった。




「ゴメン、スバル。俺そんな好都合な眼鏡持ってないみたい」
「たっぷり時間を掛けた答がそれですかヴォケ! 使えねぇのは脳味噌だけにしといて欲しいんですけどねぇ!!」
「ははは。なんかカニにそう言われるのって、もの凄いサプライズだよな」
「おいおいおい。そろそろ焦らし作戦も意味無ぇーぞー。佐々木小次郎も怒って帰っちゃうぜ。だからさー、早く俺に聞きに来いよー。俺を兎にさせる気かー? 自分で言うのもなんだけど、それって何気に可愛くねぇ?」
「おい、そこ。なんか難しげな横文字使ってんじゃねーよ。さぷらいずってなんだよ、さぷらいずって。なんかさっぱりしてて美味そうじゃねーか。新種のサラダか?」

 お前よく竜鳴館受かったな。
 溜め息交じりに顔を上げると、複雑な表情のスバルと目が合った。

「スバル、前言撤回した方が良いんじゃないか?」
「オマエに誘われるのは嬉しい提案だが、生憎とこの蟹さんも俺には大事なんでね。良いか、カニ。サプライズってのはな―――――」
「アメリカ南部で開発された野菜料理の一種でな。レタスにトマト、それに軽く茹でた豚肉を乗せた簡単なモノなんだよ」
「おお! なんだボクの意見当たってんじゃん、どーだ? レオ、尊敬してそのさぷらいずをボクの為に作ってくれっちゃっても良いよ?」
「そんなコトもあろうかと学食のオバちゃんに頼んどいた。大声で注文してきなっ」
「おい、レオ。その辺に――――」
「あー、もう誰か聞いてくれよっ。頼むからお願いします、なんか俺がすっごい惨めみたいじゃんか」

 実際のトコ、どうしようもないくらいに惨めだから安心しろ。ヘタレに付ける薬は無い。大塚製薬もお手上げだ。
 と、例の如くフカヒレが根を挙げた所で、スバルが携帯のディスプレイを見る。

「――――3分と17秒。まぁ、持った方じゃないか?」
「それでも十分ダメだけどな」
「フカヒレに期待するだけ無駄だって。あいつの血って、きっと金色だぜ」
「なんでそこまで言われてんのっ!?」

 だってフカヒレだから。
 それは仕方ない。フカヒレだもんよ。

「で、なんだよフカヒレ。つまんねー用だったら後で天ぷらおごれよ」
「まぁ、そう言うなよカニ。人様の行動を妨げてまで言うコトなんだ。きっと素晴らしい意見なんだぜ」
「え? なに、そのプレッシャー」

 中身の無くなった紙パックをゴミ箱に投げ捨てて、フカヒレに視線を送る。

「という訳で素晴らしい考えを言ってみてくれ。ヘタ―――じゃない、ダメ人―――でもない。フカヒレ」

 思わず間違った。ワザとだけどな。







「いや、その、アレじゃん。祈ちゃんの胸ってデカくない? 数字以上に」












つよきす / Side Story。

―――例えば、cmをmmにしたら結構変わると思うんだ。





「いや、そもそも具体的な数字知らねぇし」
「胸なんて飾りだって言ってんだろーがよぉっ!? あんなのは脂肪の塊で余計なモンで要らない子なんだよ! スライムベスのベスぐらい要らないんだよ。携帯電話のアンテナみたいによぉっ!!」
「お前それは要るから」
「今時のは隠してんじゃん。だから胸も引っ込ませれば良いんだよ、分かるかー? レオの頭じゃ分かんないか、じゃー、しょうが無ぇな」

 いくら駅前留学でも甲虫語は分かんねぇからな。
 だからその戯言は流してやるよ、はは。黒いノートあったら真っ先に名前書くけどな。

「で、ナニ? なんでオマエ、祈ちゃんのスリーサイズなんて知ってんの?」
「ふっふっふ。そこはアレだよ、俺と祈ちゃんとの間に愛があるからだよ」
「日本一の勘違いが今行われたトコで、トイレに行きたいと思う。トイレ行く奴ー、この指に止まりなー」

 そう言って席を立つスバル。あ、俺も一緒に行っとくか。
 フカヒレの顔を見てたら尿意と吐気を催した。
 トイレの匂いだって、フカヒレの香水に比べれば富良野のラベンダーも真っ青な爽やかさ。

「あー、ごめんなさいごめんなさい。ちょっと調べてみたんだよ」
「お前いい加減犯罪はやめろよ」
「なんでもうやってるみたいな言い方なんだよ。俺は無実だっつーの」
「いや、顔がやってそうだし」
「身体的特徴っ!?」

 なんか下着泥棒三回目ぐらいの顔だよな。
 あの、成功した時の快感にはまった感じの。間違いない。

「オマエ、フカヒレの顔にだって良いトコはあるかもしれないだろう? そうやって全部否定するのは良くないぜ。例え、フカヒレの顔が言葉にするのもアレな出来だとしても」
「フォローするのかしないのかハッキリしてくれよっ」
「ああ、悪ぃ。無い」

 嘆くフカヒレは置いといて、フカヒレの顔をカニ同様じっくり見る。


 じ。

「ごめん、目に放射能が入ってきた」
「あー、それはしょうがねぇなぁ。じゃあ、ほら、サングラス」
「どういう意味だよこの野郎」

 サングラスを掛けて、改めて目の前のダイオキシンに視線を運ぶ。

「あー、そうだなぁ。そう言われるとまぁ、なんて言ったら良いか分からないけど―――」
「お? 分かる? 俺の今までこっそり隠してきたダンディズムが」
「俺には愛せない」
「あれ、なんか涙が出てきたよ」

 フカヒレの言葉を借りるつもりは無いが、たまに現実は見てはいけない気がする。
 夢を見るってのは自由の権利の良い例だしな。世界はフリーダム。

「まぁ、良いや。で、例え祈ちゃんの胸が数字以上だったとしても、少なく言う理由は何だよ?」
「カニみたいに数センチ多く申告するなら分かるけどな。無駄な努力だけど」
「オメーは一度大砲でぶっ飛ばされたいのか、このヤロー」

 そう言って、カニが後頭部をアイアンクローで握り締めてくる。
 地味に痛くてムカつく。とりあえず、例の如く頬を引っ張っておいた。

「お前それはアレだよ。謙遜は美学って言うだろ? 俺だって普段スバルに顔で負けてるみたいに言ってるけど、実際まぁ、俺の方が一枚上手じゃん?」
「いや、地方大会で一回コールド負けな」
「おいおい、精々参加拒否だろ?」
「まぁ、スペランカーと呂布ぐらいじゃね」
「なんかどんどん酷くなってるんだけどっ!? コホン、まぁ良いや。あの国宝並みの谷間を90という数字で定義するコトなんて出来る訳が無い。それは胸に対する侮辱というモノだ」
「オマエの存在が人類に対する侮辱だけどな」
「うるせー。大体良く考えてみろよ、谷間からふ菓子が出てくるんだぞ。ありえねーだろ」
「祈ちゃん、この間大根出してたぜ」

 あの胸は摩訶不思議な四次元空間か。やべぇ、固有結界?

「マジかよ。大根までも飲み込むのか、あの谷間は。………………ハァ、ハァ、大根になりてぇ」
「お前欲望に素直すぎ。ついでに言うと、大根になるにはパラメータが足りない」
「俺は大根より低いのかよ。じゃあ、何になれるって言うんだよ?」

 スバル、カニと視線を合わせ思案する。

「ダメ人間じゃね?」
「レベルの上がらないタマネギ剣士とか」
「人間見習いとか」
「早く人間になりたいっ!?」

 これといって的確な名称が思いつかない辺り、フカヒレはもうフカヒレが一番の存在なんだろう。
 職業、フカヒレ。実にマーベラスな響きだ。

「じゃあ、オマエはどのくらいの数字だと思ってるワケ? その犯罪的な視姦テクで導いたデータは」
「ざっと100はいってると見たね。110? いや、120……あー、そんなアルティマウェポンな生乳みたコト無ぇから判断出来ないっ」
「けっ、そんな数字ばっか大きくてどーすんでしょーねー。砲弾にでもしてモビルスーツにでもぶち込むんですかっつーの」

不貞腐れるカニを尻目に、考え込むスバル。

「ふむ。それくらいの数字となると短剣は勿論、日本刀、鉄槍も余裕で包み込めるな」
「マジかよ。なんて魅力的で高級な防具なんだ。優しさに包まれて骨抜きにされる、ああ、教会で呪いを解いて貰わねーと」
「こんな純真無垢な乙女の前でどんな話題してんだオメーら。さっさといっぺん死んでこいよ」
「あの谷間見る限りは、なんでも包み込めそうだよなぁ。じゃあ、やっぱ115ぐらいはあるのかっ!? やべぇ、俺死にそう」
「あらあら、いくらなんでもそこまではありませんわ」
「なんでお前そんな悶えてんの。そんなには無ぇって、祈先生が言ってんじゃん。…………くぇrちゃsdfg!?」

 ―――祈先生襲来。
 ちょ、ちょっと待って。
 いつもの笑顔なのになんでそんな周りの空間ドス黒いの?

「――――――フカヒレさん」
「は、はぃぃぃぃっ!? なんでそんな近付いて来てんの? そんなコトしたらその1150ミリのキャノン砲が直撃して嬉しいけど、ちょっとゾクゾク?」

 青ざめながら顔を赤らめるフカヒレ。
 なんだ、そのありえねぇ行為は。お前は爬虫類の一種か。


「随分とわたくしの胸に興味があるようですわね」
「そりゃあ勿論、先生の胸は俺達のような青少年に夢と希望を与えるシスター・マリアみたいなもんですから」
「でしたら、もっとじっくり落ち着いて眺めれる所で二人になりませんこと?」

 いつも以上に蕩けそうな声を響かせ、妖艶な目線を送りながらフカヒレに詰め寄る祈先生。
 やばい。かなり怒ってる。騙されるなフカヒレ、お前の一番得意な低姿勢で乗り切れ、じゃないと死ぬぞ。
 ……いや、まぁ、死んでも良いか。フカヒレだし、むしろ逝ってしまえ。

「勿論、墓場の中までその胸とご一緒に―――――!!」
「では、墓の中まで島流しですわ」

 震えに欲望が勝ったのか、フカヒレがその場から跳躍して祈先生向かってルパンダイブ。
 が、当然それが成功する訳も無く。祈先生はあっさりとそれを避ける。

そして、当然待っているのは――――――
「お前はっ、本当に、全身がエロスだな。この、全身海綿体、がっ」

 飼い主マスターの危機に颯爽と現れた、オウムの土永さんサーヴァントが待つ―――――!!

「あだだだだ。痛、痛、あだだ、ぶべ、ぶべらっ!!! 痛い痛い痛い、ああ、でも何この、こみ上げてくる快感は――――あだだだ、ぶ、ふげらっ、え、エクスタシー……」

 なにこの変態。

「さて、残る方々ですけれども――――」

 そう言って、相変わらずの笑みを抱えて祈先生がこっちを向いてくる。

「ごめんなさいごめんなさいっ。今だったら、ボク英語の宿題いくらでもやってくるから。もうトンファーの写したりしないからっ」
「すまん、悪かった祈ちゃん。反省してるから、島流しは勘弁してくれっ」

 猛烈な勢いで頭を下げるカニとスバル。まぁ、俺も当然の如く頭を下げ―――――



「そんなにわたくしの胸を知りたいなら、対馬さんにお聞きになりなさいな。もう、わたくしの体で見たコトの無いところなんて無いでしょうから」

  原 爆 投 下。




「では、みなさん。しっかり次の授業を受けてくださいね。居眠りは許しませんわよ」

 そう言い放ち、教室から出て行く祈先生。自分の発言がどれだけ爆弾だったかを感じさせないように。
 ……どんとねばー広島。悲劇は再び起こさせてはいけない。

「あははは。さぁ、皆無事だったしめでたしめでたしってな。スバル、トイレ行こうぜ」
「ちょっと待てよ、コラ」

 俺としては実に自然でスマートかつストイックにスバルを連れションに誘ったのだが、そうは問屋が許さないらしかった。
 ガシ、と頭をとんでもない力で掴まれる。あだだ、痛、痛ぇ―――っていうか、マジ痛いんですけど!!?

「おい、おめーも胸か。胸なんだなっ。あんなのは、こっちが逃げようとすると囲んでくるはぐれメタル並みに要らねーモンなんだよ」
「お前、そこは倒せよ」
「うっさいなヴォケが。あー? 最近なんかボク達と付き合う時間が減ってんなと思ったら、そーゆーコトか。オメーはこっそり祈ちゃんと乳繰り合ってんのか、ママのおっぱい吸ってんのか。放課後に秘密の課外授業でその日本刀を挟んでんのかっ!?」
「何でそんな一生懸命なのお前っていうか、純真無垢な乙女はそういうコト言ったらめーだろ」
「言い訳すんじゃねぇ! おら、ちょっと歯ぁ食い縛れ。ボクの鋭いコークスクリューどてっぱらにぶち込んでやるから」
「それ歯食い縛る意味無い――――――っ、fkwbほしsじおj!!!」
「じゃあ、アレだ。歯ぁ瞑って、目ぇ食い縛れっ!!」
「もはや意味分かんないから、ぐはっ……うげ、痛いっつーの、っぉ、はぁ―――」

 いや、だってさ。
 デカイ方が良いじゃん。ちっさいと挟めないし。

 でっかいコトは良いコトだ。うん。






「何、綺麗に纏めてんですかね、この甘えん坊は。って言うか、良く見たら全然綺麗に纏まってねーしね!!」



 誰か助けて―――――っていうか、終わらせて。痛っ。
 あ、口切れた。頭が滅茶苦茶揺れてる。あー、やべ、意識が……はは、川の向こうでフカヒレが手を振ってるよ、やべぇ。
 フカヒレ……ぇ、神様にあいつは良い奴でしたって先に言っといて、俺のポイント稼いどいて。

「死んでねぇよっ!?」




初版 2005/11/26

二版 2005/12/23

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