―――――――正義の味方になりたかった訳じゃない。

 幼い頃は確かにそれに憧れた。
 その真っ直ぐに、己を信念を貫くその姿に。
 自分もそうありたいと。
 誰かが困っていたときに、自分がそれを救えたらどれだけ嬉しいだろうか、と。
 そう、想いを胸に刻みながら、日々を重ねた。

 だが―――
 その希望が、叶わぬ理想だと思い知るのに時間はそう要らなかった。

 理想を胸に描く少年達は、必ず何処かで壁にぶつかる。

 ――――その願いは叶わぬ希望なのだと。
 ――――理想像はいつまでも現実には生まれないと。
 ――――叶わないから、それは理想なのだと思い知らされる。

 だから、彼はその想いを等身大のカタチに書き換えた。



 全ての人は救えない。
 ―――なら、目の前の人は救ってみせる。

 理想は叶わぬ願いだ。
 ―――そうであっても、理想を築いた心だけは折らない。

 誰かを救うと願うなら、その為に誰かを堕とせ。
 ―――偽善者と謳われようと、それは許さない。目の前にいる限り、救ってみせる。



 そう誓い、変わらぬ日々を普通に過ごしてきた。
 大切な妹と。大切な友と。大切な人と過ごせる、平凡で掛け替えの無い日々を。

 だが―――
 ほんの気紛れで起こした行動が、全ての運命を変えた。

 街外れの廃工場。
 そこで、武藤カズキは“何か”に出会った―――――。










 ―――例えば、二人の姉弟。

 彼らはヒトを辞めてまで、世界で永久に生き続けたいと願った。
 だが、それは許されない行為。
 一人の人間として、それは許せない。
 一人の戦士として、それは許せない。
 なによりも、それは世界に許されない行い。

 誰かから奪う幸せに、価値があるのか。
 誰かを蹴落として得た平穏は、本物だろうか。
 誰かの分まで勝手に生きる生命に、意味があるのか。

 全てのホムンクルス。
 そして、それに関わった人間は敵だ。
 ―――ホムンクルスに日常を奪われた彼女はそう言った。

 けれど、自分達と同じ人間に日常を奪われた彼らは果たして敵なのか。
 彼らが生きたいと願うコトは、そんなにも許されないコトなのか。
 ……そんなのは、許せなった。
 例え彼らに、肉を削がれ、骨を砕かれ、心臓を貫かれようとも。
 彼等が生きたいとすら願えないなんていうのは、どうしようもなく許せなかった。

 だから、彼女に槍を向けた。
 自分を助けてくれた彼女に。
 ……何よりも大切な彼女に、刃を向けた。

 正義の味方と謳うのならば、彼らを討つべきだ。
 多くの人間を救う為に、この二人の狂信者の命をここで絶てと。
 けれど、俺は―――正義の味方なんかじゃない。
 そう、自分に告げて。
 俺は、自分で救える命があるのなら、意地でも救ってやると。
 そう、誓ったのだ。
 ずっと夢見ていた心を裏切ってまで、自分が自分である為に。





←。